複雑な業務要件はフルスクラッチで実装すべき3つの理由

複雑な業務要件はフルスクラッチで実装すべき3つの理由

前回は、ノーコードツールの限界を突破し、現場のスピード感とガバナンスを両立させる「ローコードツール」の構造的な優位性について解説しました。拡張性と堅牢性を兼ね備えたローコードツールは、DXをけん引する強力な武器です。

今までの記事ではあまり言及しなかったSaaSやパッケージも、DXをけん引する強力な武器のひとつです。SaaSやパッケージ自体が持つベストプラクティスを迅速に取り入れ、自社の業務を効率化する優れた選択肢として定着しています。一方で、SaaSやパッケージ導入は、「Fit to Standard(システムの標準機能に業務を合わせる)」アプローチが主流です。そのため、コア業務にSaaSやパッケージを適用すると、長年培ってきた「自社の強み」を失う恐れがあります。また、最も柔軟性と拡張性に優れたフルスクラッチは、ノーコード・ローコードツールと比較すると、膨大な時間とコストがかかる可能性があります。自社の命運を握るから「複雑なコア業務」のDX推進に頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか?

しかし、自社の強みの源泉である「独自の複雑な業務プロセス(コア業務)」こそが、フルスクラッチを選択すべき領域です。
そこで今回は、「フルスクラッチ」もDXをけん引する強力な武器のひとつである3つの理由を解説します。

競争優位性を創出する「コア業務」のシステム戦略

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理由①:パッケージの「標準化」と、フルスクラッチの「差別化」

フルスクラッチを選ぶべき第1の理由は、「競争力の源泉」を守り、ビジネスの成長とともにシステムも成長し続けることにあります。
 

SaaS・パッケージの強みは、ノンコア業務の「効率化」

SaaSやパッケージの最大の強みは、多くの企業が共通して行う業務(経費精算、勤怠管理、一般的な財務会計など)において、世界標準の効率的なプロセスを「買ってきてすぐに使える」点にあります。これらの業務は他社とプロセスが同じであっても「ノンコア業務」であるため、自社の強みを損ないません。さらに、スピード導入と開発・保守の負担を軽減することができます。

しかし、ビジネスにはもう一つの重要な領域が存在します。それが「顧客が自社を選んでくれている理由」そのものである、独自に作り上げてきたコア業務の領域です。
 

「差別化の源泉」を具現化するフルスクラッチ

ビジネスには、独自の商習慣や業務ルールがあります。それらは長年の試行錯誤を経て磨き上げられた、競合他社には真似できない「差別化の源泉(コアコンピタンス)」です。
 

■顧客の急な状況変化に対して、柔軟かつ迅速に出荷を組み替えることができる、物流配車ロジック
■原材料のわずかな価格変動やラインの稼働状況をリアルタイムに反映した精度の高い製造原価計算
 

このような「差別化の源泉(コアコンピタンス)」である業務プロセスに汎用的なSaaS・パッケージを適用すると、サービス品質を引き下げることになりかねません。自社の強みそのものである独自の複雑なプロセスを持つコア業務は「フルスクラッチ」で差別化の源泉を守る。他社とプロセスが同じであっても問題のないノンコア業務は「SaaS・パッケージ」で効率化する。
「適材適所の使い分け」こそが、企業の競争力を最大化するIT戦略です。
 

理由②:アジリティとITガバナンスの確保

WebAPIが公開されているSaaSは、フルスクラッチと同等の拡張性と自由度を確保できますが、経営戦略や組織ガバナンスの視点に立つと、ビジネスの成長を阻害しかねない大きな2つのリスクが存在します。
 

WebAPI仕様のSaaSベンダー依存

ツールが備えているWebAPIで「どのようなデータを、どのように処理させるか」は、SaaSベンダーの意向に依存します。

たとえば、他社との差別化を狙った「新サービスの立ち上げ」「ビジネスモデルの変革」に対して、「APIの仕様範囲内では、新しい業務ルールを実装できない」場合、SaaSベンダーへ機能改善要望を出しても対応までに時間がかかり、俊敏性を欠くことになります。さらに、実装できなかった処理は、別のシステムやExcelなどで代替することになり、現場の業務担当者に負担を強いることになります。

フルスクラッチで開発したシステムであれば、仕様変更の主導権は自社にあります。そのため、フルスクラッチはSaaSベンダーの開発計画に依存することなく、自社の成長スピードや戦略変更のタイミングに合わせて、俊敏にシステムを変更・追加することができます。
 

システム障害発生時の組織的リスク

SaaSやパッケージ製品にWebAPI経由で、複数の外部ツールやローコードアプリを幾重にも繋ぎ合わせたシステム構成は、障害発生時に極めて大きな組織的なリスクを抱え込みます。
システム間で不具合やデータ不整合が発生した際、

  • SaaS側のAPIの仕様変更(または一時的な遅延)が原因か
  • 連携ミドルウェアのバグか
  • 受け手側のアプリ側の処理エラーか

の切り分けが極めて困難になることが少なくありません。複数ベンダーへの調査依頼から、原因究明に何日もかかることもあります。最悪な結果として、現場の業務が停止するという事態を招きます。

自社の心臓部であるコア業務において、「データの生成から処理、保持にいたる全プロセスの責任と挙動を、自社および開発パートナーが把握・制御できる状態にしておくこと」で、ITガバナンスを確保することができます。
 

理由③:ライフサイクル全体のTCO最適化

導入コストだけを見れば、フルスクラッチと比べるとSaaSやパッケージ製品は、圧倒的に安く見えます。しかし、一般的に約5~10年運用するコア業務を司るシステムの場合、SaaSやパッケージ製品のTCO(総所有コスト)が安くなるとは限りません。
 

SaaS・パッケージ製品
ノンカスタマイズの導入コストは比較的安価。自社に合わせたカスタマイズを行う場合の費用は高額になるうえ、メジャーバージョンアップ時の改修コストも高額になります。また、円安・物価高の影響で毎月のランニングコストは増加傾向にあります。

フルスクラッチ
導入(開発)コストはSaaSやパッケージ製品と比べると高額ですが、リリース後のランニングコストはある程度一定的です。
 

カスタマイズ・アドオンによるコスト増

SaaSやパッケージを導入する際の理想は、「業務をシステムに合わせること」です。しかし、前述したような「どうしても譲れない独自要件」がある場合、多くの企業がシステム側に手を加える「カスタマイズ・アドオン(追加改修)」を行っています。

汎用的なSaaSやパッケージの構造に、独自ロジックを割り込ませるカスタマイズ・アドオン開発は、実はゼロから作るフルスクラッチよりも高度な技術と、予想外のコストがかかる傾向にあります。さらに、ベンダーが定期的に実施する製品のメジャーバージョンアップのたびに、過去に組み込んだカスタマイズ・アドオンプログラムとの整合性を維持するための「バージョンアップ対応コスト」が発生します。

「どうしても譲れない独自要件」があるのであれば、初めからフルスクラッチで開発したシステムを運用する方が、製品アップデートに振り回されることなく、無駄な追加改修コストも必要ありません。結果として、ライフサイクル全体のTCOを抑制することができます。
 

サブスクリプションと資産運用のバランス

SaaSは、ユーザー数やデータ量、処理件数に応じて月額・年額の費用が変動する「サブスクリプションモデル」が主流です。初期投資を低く抑えられるという素晴らしいメリットがある反面、全社展開(利用ユーザー数の増加)、事業拡大によって、ランニングコストも比例して膨らみ続けるという特性を持っています。

一方、フルスクラッチで開発したシステムは、初期の構築費用(イニシャルコスト)は高額な反面、支払ったコストは自社の「知的財産(ソフトウェア資産)」として資産計上され、数年かけて減価償却していくことで、財務の健全性を保つことができます。また、全社展開(利用ユーザー数の増加)、事業拡大によってランニングコストが膨らむことはありません。さらに、経営戦略、ビジネスの成長、環境の変化に対して、計画的にシステムを改修することができ、コストをコントロールすることができます。

導入コストを抑えて手軽に始める領域(SaaS)と、高額な初期投資をしても長期的な減価償却による財務の健全性を保つことができる領域(フルスクラッチ)。コア・ノンコア業務が、このバランスを最適にする境界線なのではないでしょうか。
 

まとめ

デジタルテクノロジーは、数年おきに新しいトレンドが押し寄せます。しかし、IT・DX部門のミッションは、生命線であるシステムに最先端のトレンドやテクノロジーを取り入れることではありません。

SaaSやパッケージ製品には、ベストプラクティスを素早く取り入れ、定型業務を最小コストで効率化できるメリットがあります。一方で、自社の命運を握るコア領域をフルスクラッチ開発したシステムには、ビジネスの変化に即座に対応するアジリティと、障害発生時に素早く対処できるガバナンスを確保できるメリットがあります。

大切なのは、「どちらが優れていて、どちらが劣っているか」「導入コストは、どちらが安いか」といった二元論ではありません。「他社と同じでいい業務にはSaaSを活用し、自社のビジネスのスピードとガバナンスを守るべき領域にはフルスクラッチを選択する」「導入コストだけでなく、ライフサイクル全体のTCOを考慮して判断する」視点が大切です。

本記事までお読みいただいた方は、「SaaS/パッケージ製品、ノーコード/ローコード、フルスクラッチ開発の強みと使い分け」について整理できたと思います。

次回の第4回記事では、実務的な一歩を踏み出すための『「ノーコード/ローコードで済む業務」と「フルスクラッチが必要な業務」を見極める仕分けの技術』をお届けします。

最後に、本記事をまとめた資料をダウンロードいただけますので、今後の参考にご活用ください。
 

競争優位性を創出する「コア業務」のIT戦略

競争優位性を創出する「コア業務」のシステム戦略

資料の内容

  • フルスクラッチで実装すべき理由①~③
  • プラットフォーム選定フレームワーク
  • 競争力を最大化するIT戦略
  • AI拡張型開発
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肝月 英利

肝月 英利

株式会社リンクレア
マーケティング統括本部 デジタルマーケティング室 室長

22年間、営業マンとして多数の新規顧客を開拓。
お客様の課題に寄り添い、課題解決のヒントにつながるような情報を発信しています。

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